臨床の学び舎おんせいげんご BLOG

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滋賀おんせいげんご、小さく開催。

 滋賀おんせいげんご、小さく開催しました。参加者は4名。

 ここ数日、特にコロナの勢いが増してきました。あまり「勉強会!!」という雰囲気は出しにくくなりまして、いろいろと残念です。この「おんせいげんご」のMottoは自由な参加と自由な議論ですが、現状はこのMottoに対してまったく相反状態。非常に残念ですが、きっともう少しの辛抱かなと。いろいろな方がまた自由に学べる場となる日を心から願います。

 

 今回は「小児の機能性構音障害」と言われる音声をお持ちいただいて、Before/Afterの音声を聞かせていただき、だいぶ上手になられているのだけど、なんかもうちょっと不安定な感じがある、どこまでSTさんが関わればいいのか、どうなったら練習は終わりなのかという話題を皆で2時間ほど議論した感じでした。

 

 私(古田)は小児の世界は未経験なのですが、子供たちが音声を獲得する軌跡をまじまじを聞かせていただくと、ただただすごいなぁ~という気持ちになります。私は音声言語の勉強が好きなのですが、言語学や音声学とか音声言語を対象とする学問において、それはもう難解な書籍はたくさんあります。・・・でも、なんだか笑えますね。子供たちがサラッと覚えてしまう音声言語を理系文系の超賢い人たちが難しく書く。でも、今日も子どもたちは音声言語をサラッと覚えていく。そのサラッてところで何が起きているんだろうって賢い人たちは研究しているんだろうけども、その横でね、今日もサラッとね。なんだか、子供たちのそれが超絶賢人たちを嘲笑っているかような…( ;∀;)  

  とはいえ、音声言語のことや日本語のことについてたくさん知っているということは、その子(人)達のより多くの良いところに感動するのは確かだと思います。私程度の知識と経験でそうですから、もっと勉強家の方はなおさらだと思います。

 

 今回は上記しましたように「機能性構音障害」という症状名の発話をされるお子様の音声を聞かせていただきました。詳細はまた勉強会に来られた折に演者の本里さんに聞いていただくと良いかと思います。オールラウンドなSTさんと小児の分野でとても長い経験をお持ちのSTさん、そして頭でっかちの私とで、その音声とSoundspectrogramを見ながら、2時間の議論。結局、とりあえずは鼻音と摩擦音あたりに次の課題を見出されました。本里さんのことですから、きっと上手に導かれて、このお子様は近日にも良い感じになられると思います(^^)

 

  個人的に興味深いなと思ったのは、いわゆる「間違い」とされる音声に現れている「代わりの発音」とでも言いましょうか、一般的な大人が発音する音を非常に上手に「近い音」で代用していることが印象的でした。それが近似どまりなので、「正しくない」とされるのでしょうが、正直、かっこよかった(^^)

 例えば鼻音を同じ調音位置の有声破裂音で代用したり、ややエネルギーを下げた母音で代用したりしている点など。また、そういう目線で見ると、[t]と[s]の置換なんかも同じ調音位置という点はちゃんと約束している。

 そのような発音の特徴は「一般的な発話」に根も葉もなく照らしあわされて、やはり「異常」、「障害」とされるのでしょう(なので、この子は連れてこられたわけですし)。でも、鼻音が有声破裂音化するのは日本語の特性としてはありがちな事ですから、さらっと言われたら聞き逃すくらいの差です。私としてはよくそこに気が付いたなぁ~と言いたい。また[t]と[s]の不安定さの背景には調音位置が同じことをちゃんと獲得していることは確実です。鼻音を、エネルギーの減弱した母音で表現しようなんて鼻音の極零構造(FormantとAnti-formantの相殺)を聴覚的に感じているからでしょう。

 そのような視点で今回お持ち頂いた音声を拝聴すると、私には「間違い」と言われる発音に内在している「今できている部分」、そこにこそ一般的な音声に近づこうとする「その子の歩み」が見出だせるのではないか?と思いました。そして、私たちの専門性の在り様とは、その子が今現在できていることをしっかりと捉え、その子が次に探しているきっかけを、その子が次に求めているステップを、上手に提案することにあるのではないかと思いました(適切な課題設定、最適な刺激の提案とはここにあるように思えます)。決して、できないことを見つけだし、できないことを出来るようにさせるような練習をするのではなく、やはり、誰よりも多くできることを見つけて、その人が今できる所を広げていくきっかけを提案するほうがいいなぁと思いました。

 

 個人的なMottoですが、今回の勉強会の経験も踏まえて、STさんの業界で「間違い」と命名されてしまう発話をを、私はもっと肯定してみたいと思います。そのためには、もっともっと日本語のことをよく知らないといけないなぁと思いました。

 

 

 やはり、皆で議論する勉強会は刺激になります(^^) いろいろな方(今回は4人でしたが…)の意見が混ざるというのは本当に考えさえられます。このような勉強会が何の気兼ねもなく開催できる日を楽しみにています(^^)/