臨床の学び舎おんせいげんご BLOG

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音の高さの心理尺度「mel尺度」ね・・・

 精神物理学っていうのでしょうか、例えば、「音」にヒトは「大きいなぁ」とか「小さいなぁ」とか、いわゆる大きさを感じるわけだけどね、その感じ方(心理)と感じる原因(物理)との関係を考える学問らしい。

 

 この学問、応用科学とでもいうのかな、うまくいけば最高。私たちが○○な感じやわ~という気持ち(心理的な反応)を起こす原因が数字で捉えられれば、「心地よい機械」が作れる。Robot声で「あ・り・が・と・う」とか言われても、はいはいって気持ちになるけど、そのRobot声にこの学問がぴったり応用されたら・・・ドキッ(#^^#)とする人も出るかもしれん。そこまで行くには、声質だけじゃなく、タイミングとか抑揚とかも当然必要だけども、「感じる」を「物理」でできるってそういうことかも。

 想像は膨らむけど、アレもそうかなと。ドラ〇ンボールのスカウターね。「その人が強い」っていうのを筋力や知略だけに依存することではなくて総合的な感覚とすれば、心理といえなくもないのでは? つまり、スカウターはヒトが「強い」と感じるための物理的な因子を「戦闘能力」として判定しているんだよね、画期的な商品です。

 

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 ところで、ヒトが音に「大きさ」と感じるきっかけのもっとも基本的な物理的な因子は、その音が持っているエネルギーといわれる。まぁ、細かいことは手ごろな本でも開いてもらうとして、その空気の振動が持ちえた圧力変化の総量が多いほど「大きく」感じるという傾向がある。

 となると、どれくらいのエネルギーの存在で、私たちはどのくらい大きく感じるのかって事が気になる人が現れてくる。調べてみようってノリが生まれる。だれかが調べてみた。でも、すっきりいかない。なぜかすっきりいかないかというと、やはり「感じる」ってのが曖昧だから。カクテルパーティー効果って知ってる人は多いと思う。あれって、雑多な音環境でもヒトは聞きたい音だけを聞くっていう能力を指すんだけど、こういう能力があるとうことは、「大きく感じる」ってのも、物理的なすっきりした数字の変化とシンクロするとは想像しづらい。

 

 しかし、ご存じなように「ある音と同じ大きさに聞こえる!」という感覚については、ある程度は測りえるらしい。以下は1000Hzの音圧とそれ以外の周波数の音圧が「同じ大きさに感じる」音圧の値を調べた有名な等ラウドネス曲線

 

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 同じ大きさってのは測りやすい。その周波数の音圧を1000Hzの音圧と「同じですよ~っ」て感じる値まで上下してもらったらいい。しかし、突然、ある音を提示して、「どれくらいの大きさですか?」って言われるのは困る。聞こえている以上、大きさはあるわけだけど、どれくらいっていわれるとうまく言えないのがヒトの心理ね。

 

 一般に、そういう心理量は言語で表現される。「大きい」「小さい」という反義語はもちろんのこと、その程度を表す副詞でも表現される。でも、「ちょっと大きい」と「ちょっと大きめ」は違うとか、「若干大きい」と「やや大きい」は「やや大きい」の方が聞き手の心の動きを多く含んでいるとか。言葉の選び方にもよるけど、言語は数字ほどすっきりは表せられないし、数字に表せられないニュアンスを説明しようとするところに言語の面白さがあったりもする(笑)

 

 「これは私が湖のほとりで読書をしていた際に、ふと読み終わった段落と次の段落の間に、つまり、私の興奮と期待の間に、視界の遠方、いや、遠方といっても彼の迸る生命の輝きが見えないほどではない距離であり、また彼というのは金色に光る鱒のことであるが、その静寂の一点に、とつぜん彼が彼の持つ命のすべてを放り投げたかのように水面から跳ね上がり、再び彼の世界に潜り込もうとした。そのとき、彼の命の躍動をその美しい曲線に宿したような尾びれが水面を打った。その小さいというには確実な音が遠く新緑の山々にするどく、そして素早くこだまして、それはまるで今日この日にここに徒にたたずむ私に対しての、なにか崇高な生命からの叱責のようにも聞こえて、私の耳の奥深くへ飛び込んできた・・・そんな大きさですね。」とも言える。言わんけど言える。

 

 「これくらいの大きさ」という表現が示す量がまちまちである以上、その誘因となる物理量を求めたって無理がある。今日、「これくらい」と言った感覚が明日は違うかもしれないし、「さっきのこれくらい」と「今のこれくらい」でも違うかもしれない。

 

 となると、せめて「2倍」とか「3倍」とかは、なんとかならないか?と思う人が出てくる。「この大きさの2倍に感じる大きさはどれくらい?」とか。ちゃんと言い直せば「この音の大きさの2倍の大きさに感じる音がある時、その物理量はどれくらいか?」を調べてみようと言い出す研究者が現れてくる。

 

んで、出てきたのが、Sone尺度ってやつ。

 

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sone

 音圧が40dBSPL(40Phon)の周波数1000Hzの音を基準にして、この2倍の大きさに感じるのはどんな音?と実験してみたわけ。そしたら、2倍は50dB(50Phon)、4倍が60dB(Phon)という感覚をおぼえるらしい。1000Hzに関してだけの実験ですが。

 1000Hz以外はどうだったんだろうね。調べたのかなぁ、調べんかったのかなぁ・・・あんまり使い道がなさそうなことやからね。もとい「4倍の大きさ」とかね、冷静になって考えてみると、4倍とか8倍とかどんな程度の感覚なのかわかりかねる・・・。

 

 とかく、ここで言いたいのは・・・

①「ある音の大きさはいかほど?」と感じる程度(心理量)を聞かれても、非常に答えづらい。

②「ある音と同じ大きさの音はいかほど?」と聞かれれば、「これくらい!」と答えられる。

③「ある音の2倍、3倍の大きさの音はいかほど?」について考えてみようとした人がいて、それをSone尺度とか言い出した。

 

 いづれにせよ、②以外はそう感じる心理量とそれを感じさせる物理量を完全にシンクロさせるのは難しい印象。心理量があまり安定しないから、その誘因となる物理量もうまく数値が出せないわけだ。

 

 

 と、ここまでは「大きさ」を例に話をしてきたけれども、音に対してヒトは「大きさ」だけではなく、「高さ」「音色」を感じる。この3つを音の3要素という。その「高さ」についても、この「大きさ」同様に心理量と物理量のマッチングを測った人がいる。それはやはり、なんとも微妙な感じに思えるところもあるけれど、それを今現在、ホントのところはどうなんだ?と実験をしてる西岡君がいる。

 

西岡君、後は頼みました。Mel尺度について説明の上、その実験結果を説明して頂けたらと思います。