臨床の学び舎おんせいげんご BLOG

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7月30日、ことのわ会でした。

今回は、第Ⅴ講の続きで、語の多元的な結合=「意味場」の構造を客観的に調べる条件反射法についての紹介を読みました。


 定位血管反応(新しい刺激に対して、指の血管の収縮、頭部血管の拡張などが現れること)を利用した特殊な方法です。予め、いろいろな語に対する定位血管反応の消去が生じるまで、いろいろな語を提示し続けます。ここから、被検者に一つの検査語を提示し、その後に痛覚刺激(電気ショック)を与えます。これを何回も強化すると、語に対する安定した条件反射(手の血管、頭部血管の収縮=条件血管反応)がみられるようになります。


 次に、他のどのような語が検査語と同じような条件反射をひきおこすのかを、検査語と関係のない語/検査語と音が類似している語/検査語と意味的に関連している語 の3つのグループのどこかい入る語を多数提示して調べます。


 その結果、検査語と関係のない語では、何も反応が起こらないが、「意味場」に含まれる語は条件血管反応が起こることが明らかにされました。


 この方法を用いた実験で、正常な場合は音が類似している語では何の反応もないことなども明らかにされました。また、後続の研究では、中等度の知的障害のある児の場合は、意味的に近い語では反応がみられず、音が類似している語で条件血管反応がひきおこされ、軽度の知的障害のある児では、意味的に近い語も音が類似している語も、同程度に反応がみられるとの結果も得られました。


 さらに、語の意味論的な内容(意味場の構造)は文脈に依存して変化することなども調べられています。(現代からみると、電気ショックを用いるという方法には大変驚きましたが...)

 

 この講の最後に、語の意味場の構造についての知見をもとにして、「語の想起や対象の命名・呼称は、決してある一つの語の活性化でない」ことが述べられ、語の想起や対象の命名・呼称は、浮かび上がる結合の全体的な複合体(意味場)の中から、一定の語を選択する過程であり、「これまで考えられた以上に、はるかに複雑」であることが示唆されています。


 語の背後には多様な結合系(音声的、状況的、概念的等)が存在していること、語結合のなかでの選択機能の生理学的基礎となっているのは「強さの法則」であること、正常の場合は意味的結合(状況的、概念的結合)が音声的結合より優位であること、を再度確認し、失語症の方にみられる語想起困難のメカニズムについて考えを深めていく材料として、頭に置いておきたいと思います。