臨床の学び舎おんせいげんご BLOG

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「は」を「た」や「か」に聞き間違える??

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古田:2020年9月19日(土)の「光華おんせいげんご」にて、西岡君より興味深い現象?が提案されました。それについて、ここで引き続き、議論を重ねてみたいと思います。まずは、西岡君にその詳細をお願いします。

 

西岡: 先日はありがとうございました。さっそく本題ですが、補聴器適合検査の指針(2010)で用いる67-S語表の単音節「は」が音圧を上げると「た」、さらに上げると「か」に変わるという現象です。

 

古田:音声学的に言うと、「は」(無声・声門・摩擦音)が、「た」(無声・歯茎・破裂音)、「か」(無声・軟口蓋・破裂音)として聴取される。つまり、ただ音圧を上げるだけで調音位置が移動し、調音法が変化したように聞こえるということですね?

 

古田:音声の認識は、その音波の構成成分と言語知識との照応によってなされるということだね。つまり、一般に言う「聴覚的印象」での発話の評価というのは、この点(事例)を考えれば、かなり慎重にならなければならないということですね。私たちにそう聞こえるからといってそう調音しているとは限らない。

 

西岡:そうですね。音圧上昇とともに声門→歯茎→軟口蓋なので調音位置の並びに法則性がないですね。

 

古田:その音のSpectrogram、欲しいね。画像で載せれる?

 

西岡:できると思います。しばしお待ちください。

西岡:お待たせしました。左が「は」、右が「た」です。

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西岡:「は」がすごいパワー。聴覚的印象は完全に「た」でした。

 

古田: Nice SSG ! 個人的な見解が深まりました。それを提案する前に、今、私たちが議論しているのは、『「は」の音量を上げるだけで、調音運動が異なり、それにより当然音波も異なるはずの「た」or「か」として、私たちは認識してしまう。なぜ?』、そして、

 

古田:で、この音波を構成する、私たちが結果的に誤認識に至ってしまう成分はなんなのだろうかなんですが、いろいろ言って申し訳ないんだけどね、Spectrogramだけでなくて、時間波形って出る? create paneで、Waveform。

 

西岡:調音が完璧でも聴覚的には他の言語に聞こえる可能性は十分にあるのかもしれませんね。時間波形も出してみます。

 

古田:これね、私の「は」(無声・声門摩擦音)の発音です。前者は摩擦音の感を丁寧に発音した「は~」って感じ。後者は明瞭な発話って雰囲気で「はっ」って感じ。後者は摩擦音なのに、音の立ち上がりが急で、まるで「破擦音」あるいは「破裂音」に近くなっている。

 

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古田:これは、私のそのはっきり発音の「はっ!」と「た」、そして「か」。そういえば、もともと語頭の無声破裂音は帯気音化(IPAでは右肩に補助記号[h])するので、こんな感じになる。その帯気音化としっかり発音する「はっ!」によって、「た」「か」が意外と近づいてきてへん?

 

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西岡:確かにかなりSSGの見た目近づいていますね。余談ですが悟空の「かめはめ波」ってかなり強く発音されているので、息子の悟天が「かめかめ波」と間違えていましたね。

 

古田: 海王拳20倍のかめはめ波のSSGです。(https://youtube.com/watch?v=1x5x0xqyN3Y) BGMや音声へのエフェクトがありますので、こうなりますが、「か」と「は」は、「め」と比べるとフォルマント遷移や周波数配置が似てるかもね。また「は」の摩擦部分はやはり短い。(動画タイム0:45~)

 

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古田:私の「かめはめは」です。摩擦成分が短い「は」って発音しにくい。声量かな。つまり、短い「は」は一般的でないのでは?普通の「は」は「か」や「た」に間違えられないけど、比べて特殊な短い「は」は間違えやすいとか?また西岡君の得意の「悟空のものまね」も録音させて頂けると助かります。

 

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西岡:これは僕の10べぇかめはめ波です。少しは野沢氏に近づけたでしょうか。

 

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 古田:10べぇかめはめ波、ナイスです。①、②、③の部分。①は音声を聴かないと同定できないけれど[x](軟口蓋摩擦)か、それより奥の摩擦音で[h](声門摩擦)も近しいのでは?と。そう考えると②に波形が似ているような。③は少し周波数が高い。同じ/ha/でも力みの有無での声道形状が異なるのかなぁ。

 

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西岡: お待たせしました時間波形+です。子音部分の振幅は確かに「た」の方が大きいんですが、母音部分は明らかに「は」が勝ってますね。そんなに母音のエネルギーで子音の聴覚的印象って変わるんでしょうか?

 

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古田: 

「は」と「か」の時間波形、ありがとうございます。私が気になっていたのは、/ha/と/kha/(語頭の無声破裂音の帯気音化/h/)の/h/部分の立ち上がりです。やはり短い/ha/はそこが/kha/の/h/のような急な立ち上がりにみえる。そこが聴覚印象を近似させていると思えるんですよ。

 

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古田:つまり、私たちは単音節で発音される無声破裂音「た」「か」の中に、/tha/、/kha/のような帯気音/h/の存在を容認している。一方、「は」の/h/は発音の仕方で、/tha/や/kha/に内在する/h/に近しい長さ(調音位置も声門から咽頭あたりになるか?)で発音される傾向がある。それが認識の近似を生んだ?

 

西岡:帯気音化の/h/に近づくほど聴覚的印象は破裂音に近づくということですかね。
そうなるとやっぱり聴覚的印象の補正(特に大脳の仕事)は相当なもんですね。
大阪人が話を盛る以上に情報盛ってますね。

 

(第一部終了 第2部へつづく)