前回(3月)には、「思考と言語」の第Ⅸ講(複雑な形式の言語発話)で、言語的結合の2つの基本的図式(シンタグマ的組織化とパラディグマ的組織化)が、それぞれ文の構成において果たしている役割について、読みました。
・「経験のコミュニケーション」として現れるシンタグマ的形式の発話は、日常の言語行為の流れによって産出され、経時的で系列的に組織された特徴を持っている。
・「関係のコミュニケーション」として現れるパラディグマ的形式の発話は、複雑な言語コードを利用する過程で発生し、系列的に構成される発話の諸要素を同時的な(一時に把握できる)図式に変換することに密接に結びついている。
まず、上記のように説明され、発話の産出・理解において両形式に留意すべきだと述べられています。その後、シンタグマ的に組織された言語行為(文)のパラディグマ的成分について、ロシア語における分析が示されました。
今回は、第Ⅹ講(展開した言語的コミュニケーションとその産出)の前半を読みました。この講では、言語発話の「形成」および「理解」の心理学的な経過が検討されます。
まず、言語発話の産出の出発点が、「発話の動機(一定の内容を表そうとする欲求)」であると述べられます。
発話の動機についてスキナーは以下の3種を挙げています。
- マンド(mand):要求
- タクト(act):情報的な特徴を持つ呼びかけ
- セプト(cept<concept):自分の思想をより鮮明に定式化したいという願望
>これらのどの一つも生じなければ、言語的コミュニケーションはつくり出されない。
・睡眠状態、大脳の前頭葉の深部領域が広範囲に両側に損傷を受けた場合
・自閉症者の心理の動機的平面が重度の障害を受けた場合
>言語行為が潜在的に保持されていても、能動的な発話が完全に脱落すると説明があります。
・「ああ」「ほうら、そう!」等々の感情的な叫び声
>複雑な動機を必要とせず、「意味的な負荷」も持っていない。
>それらは大脳が広範囲にわたって損傷を受け言語行為を失っている場合ですら、保持されうると示され、これらは真の意味の言語的コミュニケーションの単位とみなすことはできないとされます。
次に、複雑な形の言語的コミュニケーションとして、「対話」について述べられます。
一人の人が質問し、もう一人がそれに答える。この場合、発話の動機は、「相手の質問に答えようとする願望」であって、発話は、能動的な過程というよりも、むしろ、反応的、応答的な過程なのである と述べられます。
(この続きに、大脳の前頭葉が広範囲にわたる損傷を受けた場合に、いかなる能動的な心理活動が消失してしまうが、与えられた質問に対する反響的な応答は保持される=反響言語 について紹介があります)
その次に、「自発的な口頭独話」について述べられます。展開する口頭独話の基礎には、自発的な動機と内的意図(ザムウィスル)があり、ぞれらが十分安定していて言語発話のプログラムを決めるとされます。
続いて、発話の内的意図について説明されます。
もう少し先まで読みましたが、次回ここに戻って、「発話の形成」の心理学的過程をじっくり学びたいと思います。
今回は、発話が「相手の質問に答えようとする反応的、応答的な過程である」と改めて学び、失語症の方の言語訓練において会話が最重要である ことに立ち戻ることができました。
極めて基本的なことでありながら、「訓練」を考えるときに、その重要さを少し横に置いてしまうことがありそうです。
関